営業先から戻ってくると大きな封筒が机の上に置いてあった。差出人は見知らぬ女の名前。即座に爆弾が脳裏に浮かぶ。ワンナイト・ラブの復讐だろうか未練だろうか。酔っ払うと名刺を配ってしまう癖は治さないといけない。触感から書籍だと推察して封を空けて中身を取り出した。中のブツを見て驚愕した。
もしやと思い宛名を確認すると苗字のあとに優という名前。優。優。優。あ。優ちゃん。差出人は失踪したキャバ嬢の優ちゃん(参照http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20100211#1265883798)だった。心が磨り減ってお店をやめていった心優しき優ちゃん。ヤンデレだ。僕はフルネームの女性に慣れていない。やれやれだ。丸文字で書かれた手紙が入っていた。【入門書だよ。今度話を聞いてね?】。黙殺を決め込んだ無宗教な僕はブツを、入っていた封筒に片付けようとしたが、あわててしまい、封が破れ、ブツは営業部の血の色をした床に落ちてしまった。役立たずの封筒はいつも僕に絶対に破れてほしくないときにかぎって破れてしまうコンドームを思い出させる。
誰にも悟られないようにブツを拾おうとした僕の背後に人の気配。振り返れば奴がいる。総務部長。「すみません。これはちがうんです!」大きな声が出てしまった。総務部長は慌てる僕をなだめるような、子猫をあやすような、落ち着き払った声で僕に話しかけてきた。「君もか…」。…えっ!?
今、僕は「是非、酒を飲みながら腹を割って話し合いたい」と執拗に食い下がる総務部長を追い払ったところだ。明日からの出社が思いやられる。「嫌だ」誰もいない会社で卓上カレンダーに呟いてみた。蛍光灯が切れかかっている。
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