Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

真意を質すという名の悪夢


 部長が「超大型契約が取れた、詳細を詰めるので書記として同行しろ」と言うからついてきたのに「契約は同業他社に持っていかれた、俺は後学のために真意を質す姿をお前に見せてやる」とまったく違う話をしてきたのは新幹線がイイ感じに加速をはじめたあと。一人で行ってくださいよ、文句を言いたくなったが部長が窓から外を眺めて川を渡るたびに「ワオ富士川だああ」と騒ぐのをみて、なんだか悲しくなってきて、己の品性も引き摺られて墜ちてしまう気がして、やめた。

 富士川を五回ほど渡って目的の会社。額が張り出していてポカホンタス似の担当者は僕らを応接ルームに通すと、「少々…お待ち…ください」と言い残して消えた。「土人みてえな顔で寒い部屋に通しやがって」部長が毒を吐く。「見てろ…これからヤツを締め上げてやる。」何をしに来たのかまったくわからず、はあ、気のない返事をすると、背中から「フッ…業だな。こういう使えねえ烏合の衆を束ねるのも将の役目…」という部長の声が聞こえた。


 担当者のポカ尾さんが戻ってきて商談がはじまった。開戦。部長が切り込む。「もう結果は出ているのですから、今日は腹を切って話し合いましょう」「腹を」驚くポカ尾氏。僕は終始アホのように首をたてにふり続けた。「腹をかっさばいて話をしましょう。恨み言なしで。今回私どもは御社とご縁談がなかったわけでございますが紙切れひとつで、ね。結果を、ね。告知されても、ね。納得がいかないわけですよ。恨み言じゃないですけれど」「はあ」「つまりあれです。今回の結果に至った真意を教えていただきたい」出た真意。ポカ尾さんは困ったようすで「真意ですか…」。部長はノリノリで「真意です。賄賂か計略かなにか裏があったのでは?恨み言なしでどーぞー!」。


 そうですか、とポカ尾は咳払いをひとつしてから言った。「率直にいって、御社の提案は今回決定した他社様と比較して、プレゼンの内容と提案そのものの内容で劣り、かつ、価格も高かったんですよ。社内で検討の結果、100−0で他社様に決定したのです」。スクールウォーズ級の完敗。部長、あんた、なにやらかしたんだ?動揺する僕の隣で部長は腕を組み不敵に笑っている。ネジが緩んでしまったように。僕は天を仰いだ。見知らぬ、天井。


 部長が口を開いた。「真意を教えてもらえませんかね」「今お話したとおりです」とポカ尾。「いやいや腹をかっさばきましょうよ。正直いって今回のGOTEIANNは勝てると思ったので【クオリティ】をうたいながらも原価の低いグレードの低いものを納品して多くの利益を見込んでました〜」嗚呼、ツレが狂人になりました。「そうですか。お話はこれで…」とポカ尾さん。わかる。その付き合いきれないキモチ。部長は食い下がる。「真意をー真意をー」「いやだから真意ですよ、先ほどのが」「いや、まだ何かあるはず賄賂とか裏金とか」。どうしても汚い金に繋げたいらしい。


 執拗な部長に、もう帰りましょう、というと、ポカ尾さんが「それなら」と切り出す。あるのかよ!「個人というかプレゼンに参加したメンバー一同の感想なのですが、部長様のプレゼンテーション、終始、何を言っているのかわかりませんでした…こちらからの質問も、終始、的外れなお答えでしたし、それに終始わが社の名前を間違ってましたし、終始ちょっと厳しいかなと。ま、そういうことです」こうして惨敗の理由を確認しただけで面談は終わった。片道3時間。時間と金の無駄。


 帰りの新幹線。「お客様の立場に立ちすぎて収支の…、金の説明が足りなかったようだな…これが俺の営業スタイルだから仕方ないが」。終始→収支という変換が行われたらしい。部長のいうお客の真意は身にしみてわかったはずなのに。にもかかわらず「おそらく…まだ真意を質しきれてねえ。貴様がいるせいで、わが社の悪いところを言えなかったにちがいない。それで俺を悪者に仕立てた…話がわかる担当営業を悪者にするパターンか…今度は俺ひとりで真意を確かめに行かねば…真意をつかむのは俺をもってしても難しい…」とまったく弱っていない部長の強さに僕は嫉妬にも似た感情をもってしまった。もちろん部長は出入り禁止になったのは言うまでもない。


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第十三回文学フリマ(11/3東京流通センター)に寄稿しております。よろしくね。

・サークル名/龍堂薫子  (ウ-09) 『鬼畜!ヤリマン道場 外伝』にエッセイ「PZ・NTR(我が性癖と愛の興醒めについて)」

・サークル名/筑波大文妄(イ-09) 『妄点(もうてん) vol.002号』に短篇小説「愛する女への伝言」