Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

仕事中にスタンドが見えるようになった。

ジョジョの奇妙な冒険 第6部 ストーンオーシャン 1 (ジャンプコミックス)

ジョジョの奇妙な冒険 第6部 ストーンオーシャン 1 (ジャンプコミックス)

 

 スタンドが見えるようになった。ジョジョのあれだ。交渉相手の脇に交渉相手のスタンドが座っているのが見えるのだ。商談の序盤では現れない。面談を重ねていって、話が盛り上がっていき、「さあ条件詰め詰めして契約~!」という段階になるとバーン!現れる。見える。そういえば数年前に亡くなった上司がこんなことを言っていた。「お前も場を重ねていけば見えないものが見えてくる」 当時は、その上司が壁に向かって「やるな…」「その意味じゃあれだな…」と話をしている不気味な姿から、目を背けたものだが、今、振り返ってみるとあれは、異能者同士のスタンド戦だったのかもしれない。驚いたのは、最近のスタンドは名刺を持参していることだ。スタンドは、名刺交換をすると「じゃ、話を進めて」とだけ言って、我関せず、の体勢で交渉相手の脇に座った。それから椅子の背もたれに寄りかかって、腕を組み、瞳をとじて、やや上方に顔を向けて、眉間にシワを寄せ、いかにも面白くなさそうな表情を浮かべている。何を企んでいるのか。薄気味悪い。ダメだ。あきらかにこちらの動揺を誘っている。落ち着け…。「ですから、経費負担のうち…」商談を詰めながら、11、13、17…気持ちを落ち着かせるため、素数を数える。孤独な素数は勇気を与えてくれる。スタンドは目をとじたまま、難しい表情を崩さずに、斜め上に頭を向けながら、僕と交渉相手の話に頷いている。こいつ、もしかして「見えて」いる?スタンドが現れるのは、もっぱら大きな会社との交渉のクライマックスにおいて。大企業はスタンド使いでないと役職につけないのか。だから面談のたびに「今日はおひとりですか?」と薄ら笑いで声をかけられていたのか。あれは「単身乗り込んできて交渉するなんて凄いデキル人なんだなあー」というリスペクトなどではなく、「スタンドもいないなんてビジネスマンとして2流ですね」と揶揄していたのか…。スタンドは時折、カッ!と目を見開くと、「あー!その件に関してはー本社の確認を取らないとー!」「あー!その事項につきましては、要!検討とさせてください!」と、あーあー大声をあげ、反論を断ち切るような勢いでふたたび目を閉じ、また、うんうん無音で薄気味悪いうなずきをはじめた。そういう高圧的かつ超然的な態度をとられると、「この微妙な事項を確認したいけれども、質問すると、またスタンドが、あー!あー!その件につきましてはー!と突然叫ぶのかな?もうあの声は聞きたくないなあ、イヤだなあ」と気持ちが後ろ向きになり、質問がソフトになったり条件を押せなくなったりして、握りかけていたはずの、交渉の主導権を次第にうしなっていくのである。どういうわけか、このようなスタンドを各社用意して交渉のクライマックスに投入してきている。現在、精神攻撃をしかけてくる各社スタンドに対しては、守り一辺倒の苦しい状況が続いている。一刻も早く僕もスタンド能力を持たなければ。正直、焦っている。スタンド攻撃に遭って、交渉をまとめきれなかった帰り道。ふと、同じように交渉がうまくいかなかった在りし日を思い出していた。数年前、今は亡きクソ上司とクライアントへ交渉へ赴いたとき。クソ上司は、僕に「お前は何もしなくていい。俺の話にあわせてアホみたいに頷いていればいい。邪魔はするな…」と言った。僕は言われたままに頷き、相槌を打った…。薄気味悪く頷き、時折、上司の話が明後日の方向へ行きそうになると「あー!あー!その件につきましてはー!」と声を張り上げていた。そう。スタンドは僕だった。残念ながらスタンドとしては2流だった。上司を救えなかった。しくじった交渉のあと上司から「なぜ…仲間が困っているのに助けない…」と恨み節を聞かされた。見積書を出すと約束して見積書を忘れたアホをどう救えばいいのかわからなかったのだ。僕はスタンドだった。出来の悪い2流のスタンドだった。そして、運命に吊り下げられた男だった。(所要時間25分)ツイッターはこちら→フミコ・フミオ (@Delete_All) | Twitter