Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

大型連休を取得するための残業は必要悪である。

大型連休が近づいている。今、僕が勤めている会社は、一部の例外を除き、原則10連休である。連休前に片付けなければならない仕事。目途を付けておかねばならない仕事。休みが明けたとき速やかに始められるよう準備を終えておかなければならない仕事。そういった「ならない仕事」で我が営業部はバタバタしている。休むためのデスマーチで蓄積した疲労を、連休いっぱいを使って回復することになりそうだ。虚しい。

部下からの残業申請が相次いでいる。「連休を取るためには残業が必要です!」と彼らは言う。一方、会社は残業ゼロを経営目標に掲げている。僕は管理職、おいそれと残業を認めるわけにはいかない。「本当にその残業が必要なのか?」僕が言うと「必要です。我々が連休を取れなくてもいいんですか!」という反応。彼らを休ませなければ僕が上から責められる。

ウチの会社は社員に積極的に休日を取得してもらうことも経営目標にしているからだ。残業ゼロと休日取得の旗印のもとで一日あたり4時間の残業が社員から申請される。社員のための取り組みで社員が追い詰められて「残業したい!」と言いだす事態。立場的に「仕事を放りだして休め!」とも言えなかった。《残業ゼロを掲げるボスに残業を申請する自分の姿》を想像するだけで胃がきりきり痛んだ。「部長、今回の残業は休むための『必要悪』ですよ」という部下の言葉に後押しされて僕は社長室のドアを開けたのである。

現在の状況を説明して「残業不可避」を主張した。すると社長は「いやいや10連休は1年前から決まっていたのだから、各自休めるように仕事のペース配分をしなければダメだろう」と仰った。正論である。だが正論がいつも正解なわけではない。「いいえ、お言葉ですが社長、我が社の10連休が確定したのはつい1カ月前です。それに嬉しい誤算で予定以上の受注もありました」とは、わが身可愛さゆえに僕は言えませんでした。御意。「仰るとおりです」

「我が社が残業ゼロを目指しているのは知っているよね」とボスは言った。アイアイサー。「存じ上げております」「キミは部下に残業をさせて、営業部の数字を強引に上げたいだけではないか」と畳み掛けてくるボス。神に誓って違う。僕は誰にも残業なんかさせたくない。残業させてほしいと言っているのは僕ではなく部下なのだ。「いやいや社長、あいつら、自分が休みたい一心で、残業残業吠えてるだけっすよ」悪魔の自分が顔を出す。言いたい。でも言えない。部下を悪者にしたらクソ上司になってしまう。それはイヤン。あの言葉が脳裏にひらめいて、すがるような気持ちで口に出していた。

「社長、今回の残業は休みを取るための『必要悪』ですよ」。言った直後に後悔した。必要悪というワードは社長のNGワードであることを僕はそのとき知った。めちゃくちゃボスに叱られた。「必要悪とかいう都合のいい言葉を使っての正当化は好きじゃない」「な~にが必要悪だ」「悪に必要も不必要もない」と。ボコボコにやられたが、1日1時間だけ残業は認めてもらった。ただの1時間ではない、命を数年縮めての1時間だ。

部下に命の1時間残業ゲットを伝えると、「それじゃ、僕たちは連休が取れません!」「もういちど社長と交渉してきてください」「もっと僕たちのためにやってくださいよ!」と人の気も知らずに彼らは言う。きっつー。殺す気か。「1時間プラスでなんとかやってくれ。」「ムリです。」「無理でもやるんだよ!」「無理!」「やってくれ…」結局、精神論になってしまった。後味が悪い。

ちなみに僕は10連休できない一部の例外である。部下たちに連休を取らせるために留守番を一手に引き受けたのだ。連休真ん中の3日間は出勤となる。だからといってはなんだが、10連休を取るために慌ただしく仕事をしている部下のことなど、終業のベルが鳴って部長という立場を忘れてしまえば、ざまあ、と思うだけだ。おかげさまで僕個人は余裕の平常運転である。今、火曜日の午後6時半。この瞬間も10連休を取得するために、汗水たらして働いている部下たちと、10連休はないが喫茶店でコーヒーを飲みながらこのようなくだらない文章を書いている僕とで、どちらが充実した労働者ライフを送っているだろうか。間違いなく、前者だ。僕は誰からも認めてもらえない哀れな必要悪にすぎないのだ。(所要時間19分)