Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

分解/展開するだけで仕事は劇的に変わる。

午後三時。片手には缶コーヒー。秋。翳りゆく休憩スペース。一人の若手社員と顔を合わせた。眠狂四郎君だ(僕だけがそう呼んでいる)。そのニックネームは業務中の居眠り癖に由来する。あいかわらず居眠り癖は治らないようだが「開眼睡眠」「秒落ち」「病気扱いやめてください」という新技を編み出しながらなんとかサバイブしているらしい。頑張ってほしい。他人事でいられるのは彼が隣の部署の人間だからだ。

「最近どう?」声をかける。「多少、眠っていますけど仕事は楽勝です」という言葉に目まいを覚える。きっつー。僕は眠狂四郎君を「仕事ができる」と評価してきた。それは「任された仕事は過不足なくこなす」という意味であった。彼はそこにプラスアルファ=スゴイ若手という意味を見出したようである。眠狂四郎君は、よくいる物事をそのまま処理することに長けている若者の一人にすぎない。勘違いさせた僕の責任は大きい。

結論から言ってしまうと、どんな仕事であれ、彼のように物事を分解・展開しない人は一歩先の世界へ進むことはできないと僕は思う。3流(平均点)から脱出できない。逆にいえば物事を分解・展開さえできればそれなりに戦力にはなれる。昨年退職した営業部員のM君も分解・展開の出来ない若者であった。真面目に顧客の声を聞いてきて、抜かりなく準備もするが、勝てなかった。まったく勝てなかった。たとえばお客から「安いものがいい」という情報を得たら、そのまま安い商品を提案するというやり方なので、ハマる相手ならハマるが、ハマらない相手にはハマらない。

どんな仕事であれ、ハマらない相手をハメるように持っていくような、結果を良い方へ変えていくことが必要になる。相手から「安いものがいい」という情報を得たら、「相手の考える安いとは?」「相手の想定する『いい』とは?」「そもそも『いい』とは購入意思なのか」「安いものを望む相手に高い商品を売るにはどうしたらいいか」と発想(これでも足りない)し、それらへの対応を考えて企画や提案へ落とし込んでいくことが必要になるがM君はそれがなかった。結局のところ、相手を自分の土俵へ乗せられていないので勝負は厳しくなってしまう。「安い商品を提案します!」「安いだけじゃ困るよ!」これじゃ子供の使いなんだよね…。

物事をそのまま受け止めることが大事。ありのままがサイコー。そんな風潮がある。だが、物事や問題に直面したとき、そのままガチっと受け止めて、そこから、都度、自分なりに物事を分解、展開してから進めていくことが、本当の意味での物事を受け止めるということだ。時間と手間はかかるけれど、分解と展開、それだけで仕事の結果は劇的に変わる。自分のものになる。先ほどのM君の例なら、「相手の考える安いとは?」「相手の想定する『いい』とは?」「そもそも『いい』とは購入意思なのか」が分解であり、「安いものを望む相手に高い商品を売るにはどうしたらいいか」が展開になる。そういった分解と展開が出来てさえいれば、M君もただ安い商品のリストを持っていくという愚策は取らなかったはずである。

 簡単に答えを見つけられる世の中になってしまったが、そこで勝ち残る難しさは変わらない。なぜなら他者との違い、差別化の難しさは変わらないままだからだ。だが、物事や問題の分解と展開を真剣に細かくやれば、必ず個人差が出る。その人の色が出る。そこに自分オリジナルの提案や企画のヒントは必ず転がっている。いってみれば得た情報を分解・展開して、相手の一歩先へ行き、自分の土俵へ相手を引きずりこむこと。日常的な話にたとえるなら、ググって調べる前に自分の中で分解と展開を済ませてからググるよう注意すること。それだけで仕事や人生は一歩深いものになるはずだ。まあ、実際には、ネットで調べれば、すぐにいい答えが見つかってしまうのでわざわざ分解・展開しなくても、そこそこの仕事は出来てしまうし、それでいいかもしれないが、それを自分の実力だと錯覚しないことが大事なんだよ…。

 という面白くない仕事の話を僕は缶コーヒー片手に眠狂四郎君にした。僕のバスな低音は心地よい子守唄になったのだろうね、嘘みたいだろ、彼、完全に寝ていたんだぜ…。きっつー。僕は肘で彼を突いて「そういうとこだぞ?」と言った。偉そうな講釈をたれながら、僕自身が、まだ彼を分解・展開しきれておらず、彼の土俵に引きずり込まれ続けている。フミコの飲む今日の缶コーヒーは、苦い。(所要時間23分)

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