Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

店で「いただきます」を言ったら、部下から「恥ずかしい」と否定された理由が斬新すぎた。

ちょっと前になるが、飲食店で食事をして店を出たとき、部下の人から「やめてくださいよ~。恥ずかしいな~」と言われた。自慢できるような人生を送ってはいないが、税金や社会保険料は払っているので若者から恥ずかしいと言われる筋合いはない。理由を尋ねると部下氏は、僕が食事を食べる前に「いただきます」、食器を下げられる際に「ごちそうさま」を言ったことが、恥ずかしいと言った。うそーん。そのとき僕はまあまあムカついて部下氏とは今後食事に行かないと決め、この問題を終わらせたのだった。

この話題を他の人にしたとき「上司だったらちゃんと教育しなきゃダメじゃない?」と指摘されたり、自分でも何が恥ずかしいのか納得できなかったりして、熱すぎた放屁のあとパンツが汚れているかどうか気になるような感じでムズムズ気になりだしてしまった。たまらず部下氏に質問すると「ビジネス的な視点からです」と予想を裏切られる回答が返ってきた。それから「礼儀を欠いているんじゃないか」という僕の意見を鼻で笑った。部下氏は「こちらは代金を払っている客です。だから『いただきます』を言う必要はありません。つまりサービスに対して対価を払った時点でプラマイゼロであり、それ以上をやるのはビジネス的に損をしているんですよ」とワンダーな理屈を述べた。「なるへそ」僕は言いたいことを言わない術をムダに長い会社員生活で学んでいる。

部下氏は礼を欠いているわけではなかった(本人談)。家では「いただきます」「ごちそうさま」を母親へしっかりと伝えているそうだ。よかった…こんな冷血人間でも人の心が残っていて…と僕が安堵していると「これもビジネス的な視点からです」と悲しい日本語を口にする部下氏。「代金を支払っていない分を感謝で埋め合わせをしてサービスとイーブンにしています」と続けた。どこまでも損得。果てしなくビジネスであった。

人それぞれ考えかたがある。「いただきます」「ごちそうさま」を言わなくてもいい。全然かまわない。生命を捧げて食材になってくれた動植物への感謝を示すのが礼儀じゃね、とうっすらとは思うがそれを押し付けようとは思わない。僕は親からそう言われて子供のころからの口癖になっている。それが僕にとっての当たり前で、その当たり前を言わないのが僕はイヤなだけなのだ。

こんなこともあった。僕らは食品会社に勤めている。だから、ときどき、他社の食事を調査へ行くことがある。その際、部下氏は一口だけ食べると大量に残しているのだ(伝聞で知った)。「代金を払っているから問題ないじゃないですか」と彼は言っているが、業界として食材ロスや生ゴミを減らそうとしているなかで、そういうスタンスはどうなのか。はっきりいって僕はイヤだ。

こういう、カネを払えば何をしても、または、何もしなくてもオッケーみたいなスタンスを最近よく見るようになった。僕よりも若い世代に多い。お客イコール神様みたいなスタンスよりは幾分マシだけれども、支払ったカネで枠をつくってその枠から外れたことはやらない、やったら損、という考え方だ。だが僕らは食べ物に携わる仕事をしているのだから、同じ世界にいる人間に対するリスペクトは他の世界にいる人間よりもあって然るべきだろう。

「ごちそうさまくらい言っても罰は当たらないだろう」と軽い気持ちで部下氏に言ったら「それがダメなんですよ」と即座に否定された。「部長が飲食店でごちそうさまと言うことによって、サービスを提供する側は作業を止めて対応しなければならなくなります。お金にもならないのに。部長の『ごちそうさま』がカネにならないサービスを強制しているのです。同じ世界にいる僕らこそ、無駄を切り捨てるべきですよ」 ワンダーすぎて何も言えなかった。

また別の、オッサンが1人で切り盛りする小さな飲食店で会計を終えたあと、部下氏が「あんな態度でいいんすかね?」と言い出した。店主オッサンは手が離せないので「ありがとうございました」と店の奥から大きな声を出していた。それが気に入らなかったらしい。「自発的にありがとうございますを言うなら目を合わせて言わなければダメでしょう」と部下氏は言った。人の生き方に文句を言いたくないけれども、自分で設定した枠以上はやらないが、相手にはその枠以上を求めるというのはワガママすぎやしないか。

人生の先輩の役目から、いつか仕事で大きなミスを起こすかもしれないから、そういう理由で教育したほうがいいと言われる。一方であんな奴は放っておいて恥をかかせればいい、とも言われる。何が正解なのかわからないけれど、自分がイヤだなと感じるものは大事にして、とりあえずこれからも、いただきます、ごちそうさま、を言い続けることにする。(所要時間25分)