Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

社内の権力争いで生き残ったみたいです。

風雲急を告げる社内。まさに、権力を巡って、壮絶なる戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。体調を崩して昨秋から休養していた社長が、年明け早々復帰したのだ。予定よりも早い電撃復帰。社長不在のあいだにツメアトを残そうとして、自爆を繰り返していた専務派は隠蔽工作も間に合わず大慌てである。

僕は、社長派でも専務派でもない。だが社長の意向で中途入社して営業部門の責任者に就いたため、専務派からは社長派の急先鋒と見られていた。数々の仕打ち、嫌がらせを受けた。刺客を放たれ失脚を覚悟した。だが、これで終わり。これからは俺のターンである。ザマーミロ。ボスは療養中も会社の情報をマメにチェックしており、ほぼ正確に状況を把握していた。ITに疎い専務派の年寄りたちは、社長がなぜ会社の状況を知っているのか理解できていない模様。それでも専務は不敵な笑みを見せた。勝算があるのか?僕は来る壮絶な決戦に震えた。

復帰早々幹部会議が開かれた。出席者は社長、専務、常務、取締役本部長、顧問を務めているらしい謎のオッサン、それと各部門の長クラス。社長派と専務派は人数では拮抗していた。会議室は重苦しく、寒々しかった。換気のために窓を開けているだけでは説明できない寒さ。専務、本部長、総務部長の専務トリオがターゲットであった。社長は不在のあいだのトリオの施策と結果をひとつひとつあげて検証していった。

社長「テレワークと在宅勤務で業績が向上したのになんで一気に元に戻したの?職種やセクション毎に考慮しなかった理由は?」専務「在宅でこれだけの業績が出せたのなら従来の体制に戻せばより大きな…」「数字下がってるよね」「それは在宅勤務期間中の怠惰で社員の能力が低下したからかと」「エビデンスは?」「皆で相談して…」「その相談には誰が参加したの?」きっつー。時おり、専務が傍の本部長、総務部長のほうを見たけれども彼ら二人は専務と目を合わそうとしなかった。人間は醜い。

「なるほど分かりました。根拠なしですか」社長の丁寧語は怖い。それから社長は「年休取得率向上のために在宅勤務を年休扱い」「在宅勤務の要件に自宅にファクス所有」「出社ポイント制」といった専務トリオの施策を取り上げ「エビデンスは?」「なんで数字を見ないの?」「経緯を説明してください」「対応策を教えてください」と詰問した。そして、専務らの回答に「根拠なしということですね」「数字を見ていないという認識でいいですね」「休む前にコンピューターを使うように言いましたが使ったのはカンピューターでしたか」「わかりました。もういいです」「そんな説明で僕が納得すると思われたのなら心外ですね」と的確辛辣丁寧に応じる社長が恐ろしかった。

社内は「風雲急を告げる」ではなく、『風雲たけし城』であり『SASUKE』であった。専務一派は最初の障害で脱落するザコであった。僕は一視聴者であった。僕は会議室の末席で社長の発言の際には時にウンウンとアホのように頷き、時に「おー」と声にならない声を出すように口を開け、時に北朝鮮の将軍様の傍にいるオッサンのようにメモを取る仕草をした。専務一派の発言の際は、腕を組み顔をしかめ「ないわー」としかめ面を作り、眉をひそめ首を傾げ、メモを取る価値もないとでも言うように手帳をデスクに置いた。手のひらを天に向けて「なにこれ?」というように肩をすくめた。

会議は専務一派に報告書と改善案を求めた社長の圧倒的勝利のワンサイドゲームで終わった。専務の不敵の笑みは壊れて口もとが緩んだだけだったのか。こうして専務の目の敵にされて失脚を覚悟した僕は生き残った。これからは「ずっと俺のターン!」状態になるかと思った。だが、そうはうまくいかないのがサラリーマンライフ。というのも会議が終わったあと、社長は近しい人間を誘ってランチに出かけたが、僕は誘われず、ひとりで会社近くのマクドナルドでダブルチーズバーガーに喰らいついていたのだから。名誉ある中立なのか、ただの孤立なのか、まだわからない。(所要時間24分)

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