Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

【ご報告】健康診断を受けてわかったこと。

節電モードで薄暗い病院で定期健康診断を受けた。憂鬱だった。ここ数年の検査結果が良くないのと、とある検査項目自体に苦手意識があったからである。そして憂鬱の中心に採尿がある。僕は、採尿が、苦手だ。採尿はこれまで何度もこなしてきたので慣れたものだ。トイレで紙コップに尿を採るとき、僕は、まるでベテランの電車機関士のように、指定されたラインに一ミリの狂いもない精度でピタ止めできる。問題はその後だ。尿漏れが酷くて、毎回、検査着の股間前面にシミをつくってしまう。僕は普段からパンツを履いている。だがパンツの布の厚さでは吸収できず、尿が越境してしまうのだ。

採尿は、検査の初っ端に行われるため、検査が終わるまでの時間を股間に染みをつけた状態を衆目に晒すことになる。このようなカミングアウトをすると、人々は尿漏れパッドを推奨する。推奨する人たちに反論したい。キミたちは周回遅れであると。すでに試している。股間に当てるはずの尿漏れパッドで、哀しみの涙をぬぐっているのが今の僕だ。尿漏れパッドには耐えられる尿の量によってタイプがあるのをご存知だろうか。数年前、尿漏れパッド初心者らしく僕はいちばんライトサイズ(20cc)のパッドを購入した。36枚入りで1000円しないくらい安価な市販品だ。1か月は尿漏れに悩まされずに済むと安堵した。当該商品に付けられていた「私はこれで十分でした」「ビギナーはまずはこれ」というネット評価を信じた。無料の情報を信じた僕がバカであった。初めて尿漏れパッドを付けた日のことは今でも鮮明に覚えている。ある夏の日。僕はあろうことか薄い灰色のズボンを履いていた。トイレを済ませたあと尿漏れパッドを信じて往来を歩いていた僕は、ショーウインドーに映った自分の姿に愕然とした。油断していた。股間に大きく目立つシミができていた。シミは佐渡島によく似ていた。佐渡島を晒しながら真夏の往来をスキップで歩いていた事実を極めて重く受け止めた。二度とこのような失敗はしない、と。20ccの尿漏れパッドは、メモパッドへの流用を試みたが、ほわほわしていて使い物にならず、30枚以上残った状態で実家に放置してある。なお、ブックオフ(ハードオフ)に持っていったら買い取り不可の烙印を押された。長々と尿漏れパッドについて述べてきたが、期待の尿漏れパッドも採尿の際の尿漏れに対して無力であったと言わざるをえない。なぜなら、事前に渡される健診の手引きに「なるべく軽装でお越しください」とあるからである。時計やアクセサリーは外せとあるので、準アクセサリーというべき尿漏れパッドは外さなければならないだろう。つまり、10リットルを吸収できる特注大容量の尿漏れパッドを持っていても役立たずなのである。当該健診病院が採用している検査着も悪い。薄手の生地かつ薄い緑色をしており、いかにも、シミが目立つ仕様である。なぜ尿漏れが目立たぬブラックや群青色のような濃い色を採用しないのか。嫌がらせではないか。病院理事長が尿漏れに悩む者を物陰からウオッチするのが趣味なのではないかとさえ疑ってしまう。一刻もはやく、濃い色、厚手、速乾性の検査着の導入を願うばかりである。

前置きはこれくらいにして、先日の健診の話に戻そう。例によって慣れた手つきで検査冒頭の採尿を終えた僕は、全力で振った。上下上下。左右左右。虚空に円を描き、XYZを宙に記した。もう水分は残ってないという確信を得たあと、念には念を入れ、紙でふき取るなど最善を尽くした。だが神に見捨てられたようだ。検査着の股の部分に尿漏れを原因とする染みができていた。形状は北海道に酷似していた。サイズは過去最大クラス。北海道はでっかいどう、であった。健診は手ぶらだ。カバンや上着はない。でっかいどうを隠せないどー。焦る。検査終了まで北海道を晒すしかない。「尿漏れしちゃってまーす」と開き直った無抵抗主義者にはなるのは、プライドが許さなかった。僕は北海道を晒さぬように抵抗を試みた。待合席では、足を組んだ。股間部の布を持ち上げ空気を入れて乾燥をうながした。ハンカチで擦って、北海道の淵をぼかしてみた。椅子に座っているときも歩いているときも、「スムーズクリミナル」のMJのような前傾姿勢をとった。エアコンが暖房であったらその前に立ちふさがっていただろう。がっつり染みた北海道はでっかいどうの前にそれらの試みは失敗した。それどころか、足を組んだせいで拡がったような気がした。最悪だった。もし、このまま僕が意識を失って亡くなったら、股間のシミはダイイングメッセージとされるのだろう。季節は秋。股間が濡れているせいで、冷えてきた。体が冷えると心が冷えるものだ。人生を終えるまで尿漏れと戦い、股間に描いた北海道やユーラシア大陸、アフリカ大陸、江ノ島らを隠して生きていかねばならない…。看護士さんから呼ばれて股間の尿漏れを隠して各検査項目をクリアしていった。心電図を取るとき、上の着物を胸まであげたとき、尿漏れを隠すものはなかった。何も。若い看護士さんは僕の北海道はでっかいどーに気付いただろうか。影で嘲笑しただろうか。最後の検査項目はバリウムを飲んでのレントゲンであった。検査に手間がかかるせいか待合席は混んでいた。股間のシミは消えていなかった。僕は待合席の椅子に座って尿漏れを隠すように足を組んだ。周りをみて愕然とした。検査を待つ人生のパイセンたち、後期高齢者からただの高齢者、僕より少し年長の男性たちは皆、威風堂々に両腕を組み、足を開いていた。彼らは僕と同じように尿漏れしていた。その瞬間僕は許されたような、祝福されているようなあたたかい気持ちになった。木を隠すなら森の中であるならば、尿漏れは尿漏れの中に隠せばよい。なぜ、僕はひとり砂漠で戦う孤独な戦士を気取っていたのだろう。同じ敵と戦う仲間はたくさんいる。そう、僕は、ここにいていいんだ!それから僕は両腕を組み、足を開いて、看護士から名前を呼ばれるのを待った。(所要時間45分)