Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

虚偽報告を見破るにはどうすればよいのか。

僕は食品会社の営業部長だ。部下Aから案件進捗状況の報告を受けた。Aは他部門から営業へ異動してきた50代後半のベテラン社員だ。時折トリッキーな言動をキメて僕の心をざわつかせるので少々不安を覚えていたのだが、「相手の反応はどうでした?」という僕の問いに「あーはいはい。なかなかいい反応でしたよ。来週、次の段階に進むことになりましたー」という言葉が返ってきたので、ほっと胸をなでおろしたのである。

数時間後、Aと同行した他部署のスタッフBから「Aが相手から求められた資料とかけ離れたものを提示して微妙な空気になった」という報告を受けた。そのため仕切りなおしで来週再提出。「なかなかいい反応(自称)」はいずこ。ABどちらが正しい報告なのか。判断材料が乏しいため、培ってきた信頼と関係性で判断するほかなかった。

Aとはいくつかの案件を一緒に担当した仲だ。想定外の展開に陥った交渉、厳しい納期の企画作成、死線をくぐりぬけての成約、何ものにも代えがたい濃密な時間を共にしてきた。バディ的な強固な関係が確立している。それに対してBとは一度仕事をしただけの薄い関係である。Aと比較するのも失礼だ。僕はBを信じることにした。

Aにヒアリング。「先日の報告についてですが」と切り出し、あなたを信じないわけではないけれども、反応は悪かったという別の報告が上がっているから立場的に確認しないわけにはいかないと伝えてから、「先方からの依頼に応えられましたか?」と聞いた。事前に部下氏が準備した新作のサンプルメニュー表をチェックした記憶がある。

「あーはいはい。応えられたと思います」本当なのか。「新作のサンプルメニュー表を提示しましたね。相手の反応は?」「あーはいはい。悪くはなかったです」「妙な雰囲気になりませんでした?」B報告によると、Aは8名の客に対してA4のサンプルメニューを1枚ぺらっと提示した。その男気に「これだけですか」という声が出たらしい。プチ地獄。その場にいたくない。「あーはい。少し妙な空気になりましたね。メニューが紙媒体とは想定外だったようです」

「そもそも相手からは何を依頼されていたのですか?」いよいよ核心に迫る。Bから先方は我々に試食を求めていたという報告を受けている。「あーはいはい。サンプルのメニューです」だから最新のメニュー表を資料として用意した、と。「もしかしてですが、試食用メニューを出してほしいと言われませんでしたか?」食べ物を単にメニューと呼ぶことがある。誤解の余地はあるが念のため確認すれば防げるミスだ。「あーはい。そう言われた記憶はありません。確かにサンプルメニュー表を求められました」「それが試食用サンプルを指しているとは思いませんでしたか」「……」不思議な間があった。「どうです?」「あーはい。メニュー表だと解釈しました」

「実際に客先から<これじゃない>と指摘されましたよね?」Bの証言だ。だから来週仕切り直し。整合性がある。「あーはいはい。そういう指摘はありませんでした。これはこれで参考にしますという言い方はされましたけど」その反応は微妙じゃないか?。「客先から、試食のためにメンバーを集めた、と言われませんでしたか?」「あーはいはい。ありましたけれど少し違いますね。メニュー表を見るために集まったと仰ってましたよ」

「相手が8名なのは知ってました?」「あーはい。相手の人数確認は営業の基本ですね。もちろん知ってました」「8名で1枚のメニュー表を確認するのは奇妙だと思いませんか?」「あーはい。少しおかしい気もしましたが、ないこともないと思いました。固定概念をぶっ壊せ、ですよ」「何ですかそれは」「あーはい。部長が前に仰っていた言葉です」記憶にない。別人の言葉だろう。

「相手からは試食ではなくメニュー表を求められた。提示したメニューには満足していた。好評を受けて次の段階へ移行する、で間違っていないですか?」僕が確認すると「あーはいはい。概ねそのとおりですね」とAは答えた。「納得した情報が得られたのに、なぜ、相手は一週間後の試食を希望しているの?急すぎない?Aさんが的外れなものを出したから仕切り直しになったのではないですか」と僕が追及するとAは「あーはい。それぞれの世界観がありますからね。Bさんと私では同じものを見ていても同じようには見えないのです」と謎理論を繰り出してきた。「それでもある程度の共通認識はありますよ。Aさん以外の人間がほぼ同じ見解を持っているのにAさんだけは違うというのは…」さらに追及するところを、Aさんは悲しげな表情を浮かべて「私の個性が強すぎましたかね」と遮った。絶対違う。

埒が明かないので尋問はこれくらいにして次の手を考えることにした。その後、Aが以前所属していた部署から「Aさんが嘘をつくときは、はいを2回言うクセがある」と取り扱いマニュアルを教えられた。その視点で問答を振り返ったら、なんとなく真実が見えてきました。以上。(所要時間35分)