Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

参戦したコンペが史上最悪だった。

病院や福祉施設を運営する法人が開催するコンペに参加した。案件は某病院の外来向けレストラン。担当によれば、コンペのきっかけは、理事長の「業者を変えよう」という鶴の一声である。昨年の初夏から書類審査、プレゼンと順調に勝ち進み、最終選考まで勝ち残った。

最終選考は試食。理事長の「実際に提供される状態の食事で判断したい」という意向を受け、法人本部から車で10分ほどの距離にあるレンタルキッチンをおさえ、そこで試食することに決まった。

準備万端。試食会を明日に控えた前日夕方。法人担当者から「理事長と院長が多忙のため外に出られなくなった。キャンセルしたい」と一方的に告げられた。準備はすべてパーである。担当者は「すみません。理事長がわがままで」と謝罪した。雇われ人間の弱さは痛いほどわかるので「大変ですね」と慰めておいた。

試食会は病院内にある法人本部で幹部会議のあとに行われることになった。昼過ぎに会議が終わったあとの会議室を即席の試食会場にするのだ。「できるかぎり実際に提供される形態で」という理事長の意向が強いため、会議室と同じ階にあるミーティングルームを即席の調理室としてIH調理器や電子レンジを持ち込み、調理盛り付けすることにした。法人担当者は「通常は会議が終わった瞬間に懐石弁当を入れてもらっている。合図を出すから遅滞なく準備をおこなって理事長たちの食事が遅れないようにしてほしい」と伝達したあとで「すみません。理事長がわがままで」と謝った。彼の従順な下僕ぶりに敬意をあらわして「大変すね…」と言っておいた。

準備万端。試食会を明日に控えた前日夕方。法人担当者から「理事長が明日の会議後急遽出張に出なければならなくなりました」と連絡があった。準備がすべてパーになる。僕は理事長抜きの試食会を提案したが却下された。「理事長だけあらためて試食会をおこなうではダメですか」「ダメです。理事長は後回しにされるのを非常に嫌います。キャンセルでお願いします」。僕が「理事長にあわせるのは大変ですね。よくやっていられますよ」と嫌味を言うと「ありがとうございます。すみません。理事長がわがままで」と担当者。試食会は日をあらためて行われることになった。

準備万端。試食会を明日に控えた前日夕方。法人担当者から「理事長は鶏と魚が食べられないと仰っていますので、配慮してください」と連絡があった。準備がすべてパーになりそう。この展開。同じ時間をループしているような気がしてきた。「チキンソテーと煮魚はそちらが策定した規定にメイン料理として入っているのですけど」と反論すると「柔軟に対応できるかどうかも選定のポイントになります」と担当者。なるほど。選定ポイントね。急遽メニューを変更。鶏と魚をメインから外す。付け合わせや副菜の変更も必要だ。「すみません。理事長のわがままで」と担当者は言ってた気がする。

準備万端(すでに現地入り)。試食会を数時間後に控えた当日午前。法人担当者から「理事長のご要望です。料理は小分けに盛り付けてください。食べやすいよう小さくカットしてください」と注文が入った。準備が一部パーになる。やはり僕は同じ時間を何回も生きているようだ。この時空から逃げるためにはアクションが必要だ。反論する。「実際に提供される形態が理事長の意向ですよね。コンペ規定にもそうあります。小さくカットしたら味はともかく見た目やボリュームや食感は実際に提供されるものとは違ってしまいます」「あくまで試食です。実際の食事とはちがいます。それと当法人は病院を経営しています」「はい?」意味がわからない。「病院は相手にあわせた細やかな対応が必要です。理事長は胃の調子が悪いので小分けにして少量を食べたいと仰っています。その要望に臨機応変に対応できるかも重要です」時間がない。反論している時間がなかった。「変化に対して柔軟に対応…」「理事長のわがまま…」と言っているのが聞こえた。

準備万端。試食会開始時刻をマジで5分後に控えた当日直前。法人担当者から「会議が長引いています。いつ終わるかわかりません。終わり次第、食事がはじめられるような体制でいてください」と連絡があった。僕らの休憩時間がパーになる。いやマジで同じ時間を繰り返している気がしてきた。100万回生きた営業マンなのでもう何が起こっても驚かない。「何か問題はありますか?」僕がたずねると法人担当者は「理事長はじめ幹部会メンバーはコンペ対象の外部レストランを使ったことのない方たちなので、どう現状と比較するのか私たちにも予測ができません」とカミングアウトした。バカすぎて驚いた。コンペ自体の設計が出来てねえ。「すみません。理事長のわがままで」。それだけじゃねーよ。

準備万端。試食会開始。試食会はうまくいった。料理の評価も上々で、質疑応答も完璧だった。理事長をはじめとする幹部からもお褒めの言葉をいただいた。理事長は「返事を期待して待っていてください」と言ってくれた。苦労が報われた。

1週間後。準備万端で結果を待っていると法人担当者から「御社がコンペで1位でした」と連絡があった。「ありがとうございます」謝意を伝えた。すると担当者は「ですが、今回のコンペはなかったことにしてください。長年付き合いのある業者にチャンスを与えると言い出しまして」と言い出した。コンペそのものがパーである。こいつは何を言っているんだ。

気を取り直して「どういうことですか?」と尋ねると「すみません」といつものフレーズを言いそうになるので「理事長のわがまま、ですよね」と先回りして言う。ついでにコンペの設計がなっていないこと、評価点や選定ポイントが曖昧な点、度重なる変更についても意見しておいたが「理事長のわがまま」で逃れようとするので呆れてしまった。コンペ1位で敗退は28年の営業マン人生で初である。

「あなたたちの理事長がわがままなのは、あなたたちがわがままな王様に仕立てているからだ」とやんわりと批判したが相変わらずの「すみません。理事長のわがままで」という反応で脱力してしまった。

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何も考えていないようだ。裸の王様は、外の人間からみれば裸のおっさんにすぎないことに早く気づいてほしい。あと、鶏が食べられないはずの理事長、鶏料理の小鉢を取って「うまい」って言っていたからたぶん味覚バカな。史上最悪のコンペはこうして幕を閉じたのである。(所要時間44分)