Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

競争入札で無敵になる方法を教えます。

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僕は食品会社の営業部長だ。当社は或る指名競争入札に参加することになった。本来、入札案件は本社営業部の管轄である。だが、今回、指名されたのは支社であったため、支社の営業部門で参加することになった。担当は金融機関から天下ってきた会社上層部、俗称《マネーロンダリングス》のひとり、支社長氏。60代の氏は、業界知識なし、入札参加経験なし、人脈なし、人望なし、漢気なし、そんなナイ×5人間である。

ご自身も自信がないようで、28年間の営業マン生活で入札経験豊富な僕に必勝法をたずねてきた。親切心から「私が代理でやりましょうか?」と提案したが「キミは自分の手柄にするつもりだろう?」と疑われたため、親切心が蒸発して虚無になりました。

そんな流れで経験も知識も向上心もないが自尊心と出世欲は人並以上にある支社長氏に競争入札必勝法についてレクチャーすることになった。中学生が理解できるレベルで分かりやすく説明したので参考にしてもらいたい。

僕「心構え/僕からは一個だけ。憧れるのをやめましょう。入札当日だけは大手への憧れを捨てて落札することだけを考えましょう」支社長「いい心がけだな営業部長」パクリネタなので真面目に受け取られるときっつ…。

僕「指名競争入札と一般競争入札の違い/特定の選ばれし者だけが参加できるのが指名競争入札、原則誰でも参加できるのが一般競争入札です。条件が付与されるケースもあります」支社長「なるほど選ばれている時点ですでに勝ったようなものだな」選ばれし者で自尊心をくすぐられたようだ。

僕「予定価格/入札の基準となる金額です。決められた額を越えてはいけません。上限と考えればオッケーです」支社長「上限…」

僕「最低制限価格/安く取ろうとする業者を排除するために設定された金額です。下限と考えてください」支社長「下限…」反応が鈍く理解しているのか不安になる。「上弦、下弦」で『鬼滅の刃』と勘違いしていないことを祈るばかりだ。全集中してくれ。

僕「委任状/代表者の代わりに入札をおこなう場合に私は偉い人から任されていますと証明する書類です」支社長「私は支社の最高責任者だ。必要なし」御大将!

僕「入札の手順/封筒に入れて綴じた入札書を会場に設置してある箱に入れれば終わりです。開札されるまでその場にいてください。入札金額の頭には¥マークを入れてください。封筒の書き方はネットでチェックしてください」支社長「箱に入れたあとは自由の身というわけだな」だから動くなっつってんの。

僕「入札不調だった場合等々/1回目の入札が不調に終わったときは2回目が行われます」支社長「1回目、箱に入れるのをしくじっても2回目があるということだな」ちがいます。箱に封筒を入れることすらできない職業能力って。

僕「以上のような手続きを踏まえ、開札の結果、原則一番低い入札金額を記入した者が落札者になります」支社長「それを早くいえ。一番安い額だな。よし。完璧に理解した」これほど薄っぺらい完璧を僕ははじめて耳にした。

支社長が「他にもあるだろう。あらかじめ金額を教えてもらうとか、あるんだろう?」と言い出した。いやらしい声で。悪代官のような顔面で。談合等々の不正を指しているっぽい。「お主も悪よのう。おほほー」ってやつだ。ドラマ見すぎ。確かにこれまで参加した入札のなかには最低制限価格ギリギリの額を入れて落札した業者もいた。僕はギリギリの線を狙い撃ちできる担当営業マンの超能力のような眼力を信じ、憧れた。

1社だけとびぬけて低い金額を入札して、他の会社が不自然に横一列の金額を入れていたケースもあった。事前打ち合わせなしでそんな仕業ができる…僕はそこに「僕らは言葉なしでもわかりあえる…」という人類に対する希望を見出した。長年営業畑を歩んできた僕だからわかる。入札にあるのは不正や陰謀ではない。あるのは超能力と人類への希望だ。外からでは不正があったように見えてしまうのだろうね。そういえば、かつての上司や先輩は入札直前に、官公庁の担当者と会ったり、同業他社の担当者と飲みに行ったりしていた。母さん、僕のあの上司、どうしたんでせうね?

支社長氏のチームに、基本的な知識を教えた。各競合他社の傾向、同様の過去案件を例に入札金額の算出方法を伝授した。入札はどれだけ有効な情報を持っているかで決まる。支社長氏には優位に立てる情報は何もなかった。限られた情報から僕が算出した入札金額は1000万円(仮)。ここでバカでもわかるように簡単に説明したのが悪い方向に出た。支社長は「簡単な仕事だな。もうキミに教えてもらうことはない」というと僕の存在を無視して他の上層部と入札金額の相談をはじめた。

「1000万円で行こう」「ズバリすぎるからニアピンを狙いましょう」「999万9999円にするか」「もっと思い切っていった方がいいのでは?」「900万!」「勝てますかね」「敵が何を考えているかわからない。どーんといくか」「500万!」「そこまで来たらあと1万くらい下げても一緒ですよ」「よし499万にしよう」「同じことを考える敵もいるんじゃないですか」

「1円でも低ければ勝てる。そうだな営業部長!」突然、話を振られたので「イエッサー!」と答えた。「では1円引いて498万9999円にしよう」こういうアホな流れで入札金額が決定。僕が「その金額は消費税入ってますか?別ですか?」とツッコミを入れると「どっちでもいいだろ。キミには関係ないことだ」という答えが返ってきたので心を閉ざした。

入札当日。会社上層部は3名で参加したが規定で2名しか入札会場に入れなかった模様。10数社参加。当社のみ最低価格を下回って、失格。何やってんだ。支社長は「顧客ファーストの金額をぶつけましたが入札という不合理な制度に負けました。参加した中では最も低い金額でしたので実質的には負けていません」と無敵な人っぽい報告をキメて、社長から「落札できなかったのは仕方がありませんが失格ってのはどういうことですか。恥ずかしくないのですか」と叱責を受けていた。マネーロンダリングスの彼らは能力が低すぎて不正すらまともに出来ないだろう。その点は評価できる。(所要時間40分)