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元給食営業マンが名古屋市発注中学校給食事業入札で起きた談合のヤバさを解説してみた。

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名古屋市発注スクールランチで談合か 公取委、給食業者を行政処分へ(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

僕は元給食の営業マン。名古屋市が発注している中学校給食の入札で、入札に参加した給食会社6社が談合を繰り返したとして、約3億9000万円の課徴金納付命令が出された。6社は葉隠勇進(東京)、魚国総本社(大阪)、日本ゼネラルフード、松浦商店、ミツオ、メーキュー(いずれも愛知)、コンパスグループ・ジャパン(東京)。

ウチは今回の談合には関わっていない。だが、昨年まで2年間、東海営業所の所長代理を給与据え置きで兼務させられ、名古屋の給食案件にも参入した過去があるので他人事とは思えない。我々も名古屋のスクールランチ(名古屋市:中学校スクールランチ(暮らしの情報))にも参入しようと検討したが、以下に書いてある事情で断念した。断念して良かった。

どれくらいヤバいのか

まず事件のヤバさについて確認しよう。

今回6社に課せられる課徴金3億9000万円だ。独占禁止法によれば、不正な取引制限は10%(のはず)(課徴金制度 | 公正取引委員会)。 詳細はわからないが30億円前後規模の不正になる。長年給食の営業をやっているが、これだけの規模の不正は初めてだ。これまで学校給食の入札に参加するたびに何回もモヤモヤしたけれども、そのモヤモヤを煮詰めたものが今回の事件のように僕には見える。

何が行われてきたかやばいところあげてみよう。最近は電子入札で情報公開されていて便利だ。(https://www.chotatsu.city.nagoya.jp/ejpkg/EjPPIj 以下の画像はここのスクショ)。画像を見て欲しい。ここ最近のスクールランチに関する入札結果だ。

落札者にはニュースであげられていた社名が並んでいる。クリックすると個別の詳細が見られるけれど毎年ほぼ同じ会社が並んでいる。他の年度も同じような感じだった。

特に香ばしい2例を見てくれ

特に香ばしいのが次にあげる2例だ。まず1つ目。「令和元年度/中学校スクールランチ調理等業務委託(熱田区)入札結果」を見てほしい。この入札はメーキュー株式会社が55,440,000円で落札している。着目すべきは上位4社の入札金額だ。

1位メーキュー(55,440,000円)と2位魚国総本社(55,572,000円)の差が132,000円。1位と3位の差が361,000円。1位と4位の間が500,000円。確かに大きい金額だ。だが年間5千万円超という巨額の委託費の1部として、また年間の金額として考えると、それほど大きな金額ではない。月額にするとわかりやすい。1位と2位の間の差132,000円を12ヶ月で割る。1万2000円だ。4位との差額でも月額だと41,666円。

営業担当として入札に参加したことが何回もあるが、これだけギリギリの数字で入札するのは至難の業だ。ましてや4社がギリギリの金額を入れるのは芸術点高すぎる。なぜ執行者は気が付かないのか。目が節穴なのだろうね。はっきりいえば落とそうとする会社の金額を知らないと狙えない差だ。まさかそんなことをする人がいるとは思わないけど、いたのですな。ビバ談合!

もう一つ香ばしいのがこちら。「令和元年度/中学校スクールランチ調理等業務委託(天白区)入札結果」。株式会社魚国総本社が落札している。落札額は108,009,000円だ。なんと1億円!ワオ!

オールスターキャストが入札に参加しているが、2回目の入札ではなぜか辞退続出。無事に決定。かなり不自然だ。まるでロシアの大統領の政敵が偶然バタバタと死んでいくようだ。例えば落札者の次点は年間312,000円差。月に直したら26,000円だ。1億円の仕事を26,000円差で辞退する営業マンは転職したほうがいい。まさか謎のパワーが働いているなんてね。真面目に参加する会社が不憫だ。

通常なら市場原理が働き、よろしくない企業は退場していくものだ。ところが今回は排他性によって、新たに参入する真面目な会社は排除されている。つか新規参入できないのだ。ビバ談合!

なぜこんなことが起きるのか

スクールランチは給食と言うよりは弁当のイメージに近い。セントラルキッチン(拠点)で調理工程を行い、各中学校に配達する。今回問題になった入札はその調理業務の民間委託案件だ。現受注業者から見ると拠点を維持することが最大の懸念事項になる。なぜならこの件のセントラルキッチンが学校給食に特化しているからだ。大規模な改修なしでは病院給食用へ転換することは難しい。規模面でも1日千食から数万食もの受注を失った場合、新たにその規模の顧客を獲得するのはほぼ不可能だろう。

つまり入札でしくじった場合、そのセントラルキッチン自体が死ぬ。そういう危機感が業者間にあってお互いに既得権益を守ろうねーという意識が働いた。これがまず1点目の要因。

もう1点。どういうわけか僕の手元にこの名古屋市が発注となっているスクールランチの入札書類一式がある。

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(令和5年度中村区のスクールランチ調理等業務委託関係の書類。年間委託料での入札が明記されている)

詳細は省くが募集要項・仕様書・契約書等々。今となっては無意味な理念や目的が書かれているけれども、注目すべきは入札公告の2番「入札参加資格」だ。引用する。

(9) 名古屋市内又は隣接する市町村に本社又は営業所を有すること。

(10)名古屋市内又は隣接市町村に調理施設ないし炊飯施設を有すること。

(11)過去5年間(平成30年4月1日以降)に、集団給食事業(委託者の調理場における 1回当たり合計 1,670食以上の提供がある場合に限る。)を継続して3年以上受託履行した実績を有する者であること。

まとめると名古屋市内に拠点(本店や営業所)があり、かつ市内にセントラルキッチンを持ち、相当な規模の給食事業実績があること、ちなみに1回当たり1670食と言うのは学校給食か超巨大病院レベルだ。参考までに7校2000数食規模の給食センターで19億円かかる。日本建設新聞社 » 工事費概算で19億円 東給食センター S造2階2459平方mで環境配慮(栃木市)

つまり新規参入する会社は名古屋市内に拠点と20億円以上かけてセントラルキッチンを作ったうえで入札に参加し、かつ談合の会社の包囲網を突破しなければならない。事実上無理だ。僕の会社は、このハードルの高さの前に断念せざるを得なかった。ウチの会社上層部は攻めの姿勢が大事だといって当初は前向きに考えていたけれども、ハエでもわかるように僕がリスクについて説明したら「もししくじったら誰の責任だ!」と責めの姿勢へ転換していた。バカだけど保身に長けていて助かる。「セントラルキッチンを作ってもし受注できなかったら…」と想像したら「恐ろしくてとてもとても参入できない」と考えるのが普通だろう。

学校給食という特性上、どんな会社が入ってもいいはずがない。実績は第一である。だが、そもそも新規参入する側から見れば、新たにセントラルキッチンを建設して取れるか取れないかわからない今回の入札に参加するのはリスクが高すぎる。こうして既に入ってる既存業者の閉鎖的な環境が出来上がる。絶望的なのは、学校給食の排他性は名古屋だけではなく全国共通のものだということだ。

以上のように、「既存業者たちのセントラルキッチンを持ってるがための危機感」と「新規業者が入れない排他的な環境」、この2点が今回の背景にあると思われる。参入する要件のハードルが高く、リスクも大きすぎるのだ。同じ給食会社にいた者として理解はできるけれども、同情はできない。死ねよと思う。

選定の仕方がおかしいのでは?

そもそも子供たちに提供する給食を数字だけで決めていることに問題がある。昨年は話題になったホーユーの倒産による学食の提供停止事案と根底は一緒だ。

delete-all.hatenablog.com

雑な仕事をしている。それにつきるのだ。子供たちの食事のことを考えるならば、競争入札と言う数字だけの選定方法ではなく、試食等の方法で時間をかけて選定するべきだろう。しかし…競合各社の担当営業がほぼ同じようなスレスレの金額で入札したり、2回目の入札に参加するのが、なぜか一社のみだったり、パッと見ただけでおかしなことが起きているのに誰も気が付かなかったの?

給食の入札案件には闇が深い。某原子力関係の団体が発注した食堂の入札ではなぜか発注者の担当者から前日に「明日の入札、貴社はこの金額で入札してください」と言う連絡が電話で入ったことがある。「電話では金額を間違えてしまいそうなので、メールで送ってください」と依頼したら断られた。なんでだろうね?痕跡が残るからかな?(^^)。今回の課徴金についてはÇ社がうまく立ち回ったなぁと言う感想しか残らない。

名古屋市立中「スクールランチ」で談合、公取委が6社に3億9000万円の課徴金を納付命令へ(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース《6社とともに公取委の立ち入り検査を受けた「コンパスグループ・ジャパン」(東京)は違反を事前に申告し、課徴金減免(リーニエンシー)制度でいずれの命令も免れる見通しだ。》

これ悪く言えば、今後、名古屋市の展開ではÇ社の1人勝ちなんじゃない?なんかキナ臭くなってけれど、セキュリティ上の問題で今回はここまでとしよう。あれ見たことのない番号の着信が…。(所要時間50分)