Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

部下の作成した企画提案がザ・ビートルズの『ホワイトアルバム』からインスパイアされた素晴らしいものだったのでこの感動を共有したい。

「打ち合わせをしたい」と僕がいったから2月20日は打ち合わせ記念日。前日2月19日、部下Sに、仕事の進捗を確認するために打合せを行う旨を告げた。「任せている企画提案を確認したい」と。企画提案書はパワポのスライド3枚で構成されていた。PCの画面を表示させたSは「提案内容はコンパクトにまとめるつもりです」と言った。「つもりです?」一抹の不安を覚えた。「つもり」は「前もっての考え/意図」を意味する。言い換えれば、「まとめるつもりです」は「まとめる意図がある」イコール「まだやっていない」を意味する。そのため一般的に「つもりです」は、一抹の不安どころか大きな不安、超不安を誘発するフレーズである。「私はやっていません」と胸を張っているのだから。

ところが一抹の不安に留まったのはなぜか。パワポの構成からより大きな不安を感じたからだ。3枚のスライドにそれぞれ見出しタイトルがセットされているのが目に入った。1枚目「表紙」。2枚目「提案」。3枚目「ご清聴ありがとうございました」。これが何を意味するのか。気持ちを落ち着かせるために、冷静になって申し上げますと、これは肝心の提案が1枚しかないという厳しい事実を突き付けていた。

「提案が簡潔なワードで過不足なくまとめられドンキホーテのように圧縮陳列されているにちがいない」と好意的に解釈して精神崩壊するのを堪えた。1枚目の「表紙」が画面に表示されていた。タイトルと日時と社名が記載されていた。フォントは明朝体。必要最低限の情報。Sは2枚目の内容を表示させた。嘘だろ。目を疑った。画面は真っ白。ビートルズのホワイトアルバムのジャケットのようだった。

ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)

ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)

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いや。そんなはずは。当初、フォントが小さすぎて見えないのだと思った。僕は50歳になった。視力の低下が著しい。先日も入浴する際に脱ぎ捨てた真っ白のブリーフが汚れていて家族に叱られたばかりだ。脱いだときにピュアホワイトだったはずのブリーフを、家族からうながされてあらためて確認すると、ブラウンの極細LINEが走っていた。30代の僕ならば、運の付着を見落としていなかっただろう。

このような事件があったばかりなので僕は自分の視力に対する自信を完全に喪失していた。だから一見、真っ白のパワポでも、小さいフォント、薄い色のフォントで内容が記されていると考えたのだ。提案書というものは受け身のメディアである。あえて視認性の悪いフォントにすることによって「何が書かれているのだろう?」と受け手の関心を惹く孔明の策かもしれない。

「真っ白だね。ビートルズみたいだ」と僕は評価した。「そのとおりです。何も書いていないのですから」とSは言った。試されている、と思った。だが、甘い。僕にはもっと酷いプレゼン資料を見せつけられた経験がある。今は亡き上司がつくったパワポ資料で、すべてのアホはロックに通じるのだろうね、それは奇跡的に伝説のロックバンド・ジョイ・ディビジョンの『アンノウン・プレジャーズ』のジャケに酷似していた。すべての価値観を破壊するような亡き上司のパワポを経過していたので、部下の白紙回答を目にしても、心身が壊れずに済んだ。ありがとう上司。

アンノウン・プレジャーズ

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上司がパワポをはじめたら - Everything you've ever Dreamedより

なぜホワイトアルバム状態なのか、Sに尋ねた。緊張を和らげるために「内容がないよー(^^)。締め切りに間に合わないよー」とフランクに。Sは、どうせ僕から全面的なダメ出しを受ける、のであればダメ出しを受けてから作成したほうが的を得たものがつくれると答えた。Sは僕よりも年上である。これまで年下の上司からあれこれ指摘されて恨みが募ったのだろう。知らねえよ。僕はブチ切れた。ハラスメントを受けたら人事部に報告をするよう言われている。報告したければ報告すればいい。駆け込めよクソが。そんなの関係ねえ。

僕は「ふざけんなよ。頼んだ仕事くらい低クオリティでいいからやれよ。なんだよ、最初からやらないって。怒られるからやりませんでしたって馬鹿か。こっちだってダメ出しをしたくない。けどダメだからダメを出しているだけだ。仕事だから。こっちだってアホに付き合いたくないよ。つか一週間も猶予をあたえて白紙回答して開き直っている人間を部下に持つ気分わかる?モチベーションがあがらない?モチベーションが上がったって人並の仕事はできないだろ?ああ、もういいわ。言うだけ無駄。任せた私が馬鹿でした。本当に嫌になるわ。クソだ」と罵った。心の中で。その日の夕方、僕は人事部に駆け込んでカス部下からのハラスメントを訴えた。これが本当のカスハラ。2月20日はカスハラ記念日。(所要時間28分)