Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

「下請けが死んでも代わりはいるもの」と商談で言われた。

僕は食品会社の営業部門の責任者。中小企業なので、本来の仕事の新規開発営業に加えて、既存の取引先との交渉も任されている。最近、以下のようなやり取りが繰り返されている。

10年以上商品を納品させていただいているクライアントとの価格交渉だ。会社上層部からは価格アップをするよう厳命されていた。「最高幹部会議でコストを価格に転嫁するという方針で行くことになった」という上層部は真顔であった。「お世話になってます」「こちらこそ貴社にはお世話になっております」応接室で担当者と会う。いつもと変わらない商談のはじまりだ。担当者は「いろいろなものが値上がりしてお互い大変ですよね」と切り出すと、昨夜のニュースでスーパーの店長が値上げ改訂したシール貼り換えに追われているエピソードを話した。値上げ交渉をするには最高の出だしである。「どの業界も値上げで苦労してますよ」と同意する。

「皆、苦労してますよ」と担当者は、詳しい話はできないけれどと前置きしてから、「原材料だけではなく、ラインを動かす電力や燃料も値上げしてしまって…。当然値上げの影響を見越して事業計画は作成したのですが、値上げ幅が想定をこえてしまいましたよ。上からも詰められましてね、参りました」と苦しい胸の内を明かしてくれた。「見通し甘すぎじゃね?」と内心で思いつつ、「弊社もまったく同じです」と僕。担当者は「今までは、取引を失うのを恐れたり、ユーザーが離れるのを恐れたりして、商品の価格には転嫁できませんでしたけど、生き残るためには、もうまったなしですね。価格に転嫁させてもらうしかありませんよ」と言った。それから、これまで行ってきた経営努力が限界点に達しているのだから、と理由を付け加えて「かかったコストを価格に転嫁して、消費者やユーザーに負担してもらう世の中にしていかなくてはいけませんよね。我々のような立場のものばかりが損をするのは間違っていますよ、そう思いませんか?」と一気にまくしたてた。完全に同意である。「オッシャルトーリです」と同意した。

お膳立ては出来ていた。僕は、値上げを切り出した。値上げの理由は担当者自身が語りつくしていた。原材料、あらゆるコストのアップ。「なるほど。おっしゃることはわかりました。ここで結論を出すことは出来ませんが前向きに検討するので時間をください」担当者はそう回答した…ら良かったのだけれど現実は「ああ!それは無理な相談です。値上げは無理!なし!さっきまでの私の話聞いてました?我が社は厳しい状況にあるって言いましたよね。あの話を聞いて、値上げの話ですか。まいったなー」という回答であった。サイコパスかよ。それとも知らないうちに人が切り替わったのか。

「これからはコストを価格に転嫁していくという話では?」「いやー。それはウチの話であって、立場であって、御社とは立場が違うじゃないですかー」。きっつー。このまま押し切られるわけにはいかないので「弊社も御社と同様に苦しいので価格に転嫁させてください。もし価格を維持しろと仰るのなら、内容量を減らし、納期も緩和させていただくしかありません」と申し出た。「コストを価格に転嫁するのは一般論ですよ。御社とは特別な関係を築いてきたと思っています。特別な関係だからこそ、今の提案を取り下げてください。聞かなかったことにしますから。私を悪人にしないでください。本気を出させないでください」と担当者といった。「私に本気を出させないでください」まるで少年漫画の悪役がセーブしていた力を出す前に吐くセリフのようだ。

何を言いたいのかわからない。話の続きを促すと「納品される商品とサービスの質は落とさず現状の価格を維持してください」ということであった。「もしノーと言ったらどうなりますか」「他の会社さんの話を聞くことになります。私はそんなことはしたくない。だからノーと言わないと信じています。これからもうまくやっていきましょうよ」と担当者は話をまとめた。なぜ世の中全体が値上げで、コストを価格に転嫁しなけければいけない、という話から、ウチは除外されなければならないのか。

世の中全体が値上げ、というのは表面的な現象である。実際には、値上げが出来るところと出来ないところがあって、ウチのような弱い立場、下請けは「代わりの会社はいる」というジョーカーを切られると弱いのだ。ここのところ、こういう商談が続いている。「わかりました。持ち帰って検討します」といって出たその足で新しい販路を開拓しに行った。こういう取引先の態度もクソだけれども、方針を曲げて現状の価格を維持してしまう我が社の上層部はさらにクソなんだよね。これじゃジリ貧だぜ。きっつー。(所要時間22分)