2008-01-01から1年間の記事一覧
床に落ちた消費者金融のティッシュペーパー。薄いビニールに印刷された笑顔が歪んでいる。僕はそれを拾ってポケットに突っ込んでから、上着を脱ぎ、鞄をラックに放り込み、窓際の席に腰を落とす。左では四角に切り取られた街並みが後ろへと流れ始めていた。…
僕は18才になる妹と二人暮らしをしている。僕が高校生三年のときにやってきた妹と僕の間に血の繋がりはない。妹は7月に身体を壊して僕の部屋で療養している。そんな妹がひと月ほど前からお弁当をつくり始めた。今朝も早起きしてキッチンを賑やかにしている。…
好きか嫌いかっていうと岡田准一は好きなタレントになるのだけれど、僕は岡田と顔が似ているせいで本当に困っている。チョー大迷惑。怒り心っ頭。眠りは浅くなったしやっとの思いで眠っても網膜の裏でオールナイト上映されるのは岡田が超人的活躍をする「SP…
ハローサムシンッ!人を欺き、傷つける種類の嘘そのものと、そういった嘘を生み出す存在を僕は憎んでいる。今、僕は食品関係の仕事をしていて、直接被害に遭ったわけではないけれど食品偽装の問題で慌ただしい毎日を送っている。疲れが僕の身体を突き抜けて…
すこし昔、僕は池袋西口ではちょっとした「顔」で皆からは「キング」と言われていた。日曜日、久しぶりに訪れた池袋は「ふくろ祭り」というそのまんまネーミングのお祭りをやっていて、約束の時間にお約束どおりに遅れてやってきた僕の胃は祭りの太鼓の音に…
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福岡の事件を聞いて僕はひどくショックを受けた。事件の続報を追う気力が萎えてしまうには十分なほどに。断片的に伝えられた事件の背景に僕の子供のころと似ている点があったからだ。身体に障害のある母親、発達障害のある子供、子供が親を詰り、親が子供を…
今月最強クラスの憂鬱の馬鹿野郎がヒュプノス様に飛び蹴りを喰らわせてどこかにすっ飛ばしたらしく僕は眠れないまま朝を迎えた。明け方の暗闇を斜めに切る雷雨。雷鳴と稲光の競演。雨音を背景にカーテンで織り成される光と影のショーを僕は万年床の上に体育…
事故を告げる電光掲示板。僕はホームから夜空を眺めた。人身。遅延。予め組み込まれた橙色の文字列が素知らぬ顔で左から右へと秋風のなかをすり抜けていく。左から右へ。橙色のドット。駅員に詰問する会社員風の男。弁明する腕章を巻いた駅員。喧騒。ヘッド…
土曜の朝。テレビは「皇室アルバム」。僕は1000mlパック牛乳に口を直接付けて飲む。牛乳が僕の喉をごろごろと鳴らして身体の一部になっていく。小学生のときに「牛乳は飲むんじゃなくて噛むんだ」と先生に言われたのが習慣になっている。もぐもぐもぐもぐも…
天気がよかったのでビールを飲みながらベランダで寝転んでいた。空は突き抜けるように青く、雲ひとつなかった。「夏も終わり…」「厳しい残暑…」。昨夜。近日中にプロ野球のスター選手との熱愛が発覚するに違いないお天気お姉さんが涼しげな顔で夏の終わりを…
「あなたとは違うんです」とは中華料理屋の壁のちょっと高いところに置かれたナショナル製14型テレビから飛び出してきたメガネをかけたちょっと偉そうなハゲの言葉で、僕はカウンター席で醤油ラーメンをズズッズーとすすりながらそれを聞いて「うわっ人間く…
お気に入りの真心ブラザーズがインナーイヤフォンの片方から流れ出すとぷるぷるとしてキミはいつも嬉しそう。キミに宣言されなくても僕にはわかっている。キミのフェイバリットソングが「ポプラ」だって。ポプラ。シングルカットもされていない地味な、だけ…
目が覚めると「へ」の字になっていた。平仮名の「へ」。布団の上、うつ伏せの姿勢で軽く腰が持ち上がった僕は、少し離れて眺めると頭から足の指先まで170センチの「へ」の字に見えたはずだ。目が覚めてしまったのはすっかり完治したと思っていた腰痛のせい。…
足音がする。息遣いがする。むしいむしししし。すぅはすうぅはあ。ときに嬉しそうに、ときに悲しげに空気を響かせる。床、柱、梁、階段、洗面所、便所、風呂、物置、ガレージそして庭。生きている。古い家のいたるところにはかつて住んでいた人の足音や息遣…
駅前のビルディングに囲まれ歪な多角形に切り取られた空には夕方になると大きな黒い影が現れびょびょっびょびょと諸声をあげて飛ぶ。黒い影の正体は鳥の群れであたかも一の生物のように大きさ、形状、濃度を絶えず変化させながら建物から建物、街路樹から街…
午後3時。新宿は真夏の陽射しとビルの群れに飲み込まれたオフィスや飲食店からの排熱と多種多様な店頭から流れる音とで巨大なスチームコンベクションとオーディオシステムのなかにいるような状態で、嫌でも汗がたらたらと噴き出してくる。既に仕事を終えて…
頚動脈で遭難した。地図を引っ張り出してきて神奈川県を見つけ、隣接する東京都、山梨県、静岡県との県境と東京湾、相模湾に面した海岸線に赤鉛筆を走らせる。相模湾の緩いループをすすしゅと、横浜川崎港湾地域の細かい凹凸は適当にギザギザと。リンクを繋…
お前に訊きたいことがあると部長から内線で告げられたのは午後6時9分。仕事を投げ出しiPodと鉛筆を鞄に投げ入れ小学生のときの避難訓練の要領でデスクの下に潜りヤンマガの袋綴じグラビアをビリュリュリュと手刃で切って四つん這いのワンワンスタイルでベロ…
地元にある駄菓子屋は婆さん一人で切り盛りしてるような小さい店でお世辞にも綺麗とはいえない。もう25年も前の話になるのだけれど、婆さんの駄菓子屋の店頭にはカラフルな飴玉がつまった瓶、駄菓子、水風船、零戦ヒコーキが溢れ、毎日のようにボンクラ小学…
毎月第三金曜日は月次定例営業会議と決められていて僕は目を覚ました瞬間から憂鬱のなかに沈んでしまう。通勤電車が沈没していく潜水艦のように思える。救いの手もなく、墓標の有りかも知られず、逃げ場もなく、光届かぬ海溝へと沈んでいく潜水艦。手帳を取…
優しさに溢れる僕は冷蔵庫のためにだって祈りを捧げる。もし冷蔵庫による冷蔵庫のための天国があるのなら無事に辿り着いてほしい。工場のラインで生き別れてしまった親兄弟と再会してほしい。ブリーフにタンクトップ・シャツで暑さに反抗しながら祈る。 昨日…
音楽を探している。踊るための音楽を。 七月の初めの日に電話が鳴って、ダンスイベントの音楽を任されることになった。時間があまりない。僕は毎晩部屋に帰るなりネクタイを外しYシャツを脱ぎ、過去のセットリストと格闘している。曲の組み合わせを考えては…
赤信号、背景は曇り空。フロントガラスを額縁にして四角形に切り取られた赤と薄灰色のコンビネーションは信号の意味を見落とすことが出来ないほど完璧。僕は停止線の手前1メートルきっちりに車を停め、ズリャっとサイドブレーキをひいた。すると道路の左脇…
風景、音楽、匂い、そして言葉。出会ったときにはとるにたりないようなものが後になってみると頭にひっかかって離れないようなことがある。断片。欠片。前後の文脈や意味は失われ、独立してしまっている記憶だ。僕の場合、「車に潰され、タイヤが三角形に変…
風呂最高。マジ最高。この季節、仕事を終えてからの風呂ラブ。僕は息子に声をかけバスルームへ向かう。「おぉい!一緒にお風呂入ろう」この「おぉい!」と声を掛ける瞬間。「立派な息子を授けてくれてアリガトウ」と部長を除く世界中の全人類と宗教を超えた…
毎晩、仕事帰りに通過するスーパーは「マーケティング」や「洗練」といったものとは無縁だ。青果の陳列台に突き刺さったダンボールの値札。そこにオッサン店長の手によって黒マジックで書き殴られた文字の荒々しさからだけでもそれはみてとれる。もっとも、…
商談はうまくいかなかった。不発弾を抱えたような心持ちで地下街から出ると霧雨が街を覆っていた。むししとした湿気から逃げ、飛び込んだ先はゲームセンターだった。ネクタイを緩め、空調の効いた空気を襟元に入れながら周りを見渡した僕は久しぶりに訪れた…
午前零時過ぎに海岸沿いの国道を車で流した。僕の住んでいる街には海岸があり、そのうちの何割かが海水浴場になっている。海岸では海の家の建設が始まった。昼間のうちに資材と人手を消費して先ずは土台、次に柱という順番で本来の姿を現していく。今はちょ…
高校の頃からサーフボードを所持している。サーフボードはどうやら興味を惹くアイテムらしい。好奇の眼で見られることが多い。特に東京の大学に通っているとき、友人やバイトの先輩にサーフィンの話をすると驚かれたものだ。本当にやるの?って感じで。その…